今日は長くなります。
事ある毎に僕はここで、自分がフランスに留学していたことを書いている。それ程僕の人生に大きな影響をおよぼしているということだ。ただ、じゃあ僕がフランスの文化や芸術にすっごく興味をもって行ったのかっていうと、そぉんなわけではない。これが40年前だったらそうはいかない。よほど確固たる動機、目的がなければ海を渡ってはるかヨーロッパなんて行けない。ところが今や、ちょっとした行動力さえあれば行けちゃうんだもん。これにはもちろん賛否両論あると思うけど、とにかく僕にはとてもいい作用をもたらしてくれた。何しろ楽しかったから。
さてさて、僕がフランスに降り立ったのは今からおよそ10年前。とにかく住むとこ見つけなきゃ、ってわけで学生対象の不動産屋さんみたいなとこ行って部屋を探した。部屋といっても僕はホームステイのようなとこを探していた。フランス語を一日でも早く身につけるため、現地の人が身近にいる環境で生活をしたかったんだ。
‥‥全然見つからない。一般常識として、留学生は来る前に住居は決めるものなのだ。例えば日本人なら日本でそういうサービスしてくれるところで、自分の希望を伝えて、それに適合する住まいを予め決めてから旅たつのだ。そりゃそうだろう。だって家がないって超心配だもん。でも僕は、海を越え、飛行機で12時間もかかるような場所なのに、自分の目で見もしないで住居を決めるとかできなかった。だってやじゃん、全然聞いてたのと違ったりしたら。で、実際そういうめにあった人もけっこういて、苦労してたもん。
でもそんな僕の考えは裏目に出て、どこもいっぱい。不動産屋さんには
「あなた、遅すぎますよ」
とか言われてますます不安を募らす。
1週間経っても決まらず、くらぁぁい気持ちでマックにて一人夕飯。‥ん?さっきから隣のフランス人が俺のことチラチラ見てやがる。何だよ、そんなにアジア人が珍しいのかよ。ちょっとやさぐれた感じになっていた僕は、そんな気持ちでハンバーガーをパクついていた。
5分後。そのフランス人が俺の隣の席に来た。そして僕に
「あなたは日本人ですか?」
僕「そうですけど」
フランス人「僕の奥さんは日本人なんです」
僕「(うさんくさいな、スリかな?それともホモかな?)ああ、そうですか(疑)」
そのフランス人は、ポケットから小さなアルバムを取り出し、自分の奥さんと子供の写真を僕に見せた。あ、ほんとに奥さん日本人なんだ?そのフランス人は名前をパトリックと言い、モンペリエのオーケストラのオーボエ奏者。奥さんとはパリの音楽大学で知りあい(その奥さんはピアノを専攻していた)、そのまま恋に落ちて結婚と言う訳。
そして、聞くところによると今日第二子が誕生!うれしくって祝いたかったが、奥さんは日本で出産したため、パトリックは一人っきり。さびしく夕食をマックで食べていたとのこと。
パトリック「僕は今日とっても嬉しいんだ。もしよければ今から家に来て二人でお祝いをしないか?」
僕は、そういうことなら全然OKってことで二人でパトリック邸へ。とても閑静な住宅街にある彼の家は、2階建てのこぎれいな家。お邪魔した途端いそいそとCDプレイヤーのとこ行くから、何だ?と思ったらドリカムを流した‥。んん、気持ちは嬉しいけど僕はそんなにドリカム好きじゃないよ、まあそんな事は言えない。
二人ワインを飲みながら、僕は自分の状況をたどたどしく説明。家も決まらずホテル住まい。ホテル代もバカになんない、みたいな事を話していたら
パトリック「それなら、僕の妻と子供が帰ってくるまでまだ一ヶ月くらいかかるから、住まいが決まるまで、ここに泊まっていいよ。」
もう神からのお告げかと思ったね。不安で不安でたまらなかった僕に一筋の光が見えたよ。いや、確かに見えた。
その日は二人おおいに盛り上がってワイワイ騒いだってわけ。
翌日、ホテルをチェック・アウトした僕は荷物を抱えてパトリック邸へ。着いて早速パトリックが僕に意味深な表情で
パトリック「実はキンヤにお願いがある。妻の親からFAXがあって、子供が生まれたって事だけは知ることができたんだが、その後、病院に電話しても僕が日本語しゃべれないからどうしても途中で切られてしまうんだ。キンヤ、悪いんだけど、代わりに病院に電話してくれないか?」
そんなのお安い御用ですよ、パトリック。すぐに電話、奥さんを呼び出して、パトリックにパス。パトリック、嬉しそうに子供は元気か、奥さんは元気かっつって話してる。で、その後僕の話にもなってたみたいだ。僕についても説明、家が見つかるまでここに泊めてあげることにしたと伝えていたのはなんとか解せた。
その後、いやああ、良かったねえ、なんて話しながらお茶してると、電話の鳴る音が。パトリックが電話に出て、そのあと、僕に代わってくれという。奥さんのお母さんからの電話だ。
僕「あの、初めまして、私大久保欽哉と言います。昨日パトリックと会って、いろいろ話をしまして、僕の住まいが見つかるまでこちらにお邪魔することになりまして‥‥」
奥さんのお母さん「‥‥あんた、今すぐその家から出てってくれませんか?」
注:関西弁です
僕「え?」
奥さんのお母さん「あのなあ、いくら私の娘があなたと同じ日本人だって言っても、アカの他人やんか。あんたもちょっとずうずうしいんちゃうの?うちの娘かて、そんな知らん日本人が家にいる思ったら心配で乳も出えへんわ、今すぐ出てってもらえません?」
僕、しばし絶句‥。
僕「‥‥す、すいませんでした。僕もついパトリックの言うことに甘えてしまいまして‥」
奥さんのお母さん「パトリックはフランス人やから、すぐそういうことしてしまうんや。まったくフランス人は困ったもんやで」
その間パトリックは心配そうに僕の隣で聞いている。電話を切り
パトリック「どうした、何て言われた?」
僕「出てってくれって‥」
たどたどしいフランス語で一部始終を話すと、パトリック激怒り。
パトリック「お母さんは自分の娘が僕と結婚するのをずっと反対してるんだ!僕がすること全部気に入らなくていつだって文句を言う!‥でもキンヤごめん、出てってくれる?」
ナンじゃそりゃ、ああ、出て行きますよ。それにしても何でフランスに来てまで日本人にこんなめに遭うわけ?
その後、彼とは何度か食事したり、自分の所属するオーケストラのコンサートに招待してくれたりと、お世話になったが、僕はこう見えて根に持つタイプ。しばらくして、無事見つかった下宿先に僕宛の電話が。出てみるとそれはパトリックの奥さん。
「うちの母が無礼な事言って大変申し訳ありませんでした。無事こちらに戻りまして、日本食もたくさん持って帰って来ましたので、是非遊びに来てください」
僕は丁重にお断りをした。いや、その奥さんに恨みはないよ?でもさあ、あの時、そう、僕が病院に電話して奥さんに取り次いだ時よ、それを何でわざわざお母さんに報告するわけ?あの家はパトリックと奥さんの家だろう?二人で買った家だろう?誰を泊めようとパトリックの勝手じゃん。いや、もしそれを奥さんが嫌だって言うならいいよ?まあショックはショックだけど。それに、自分のお母さんは事あるごとに二人の結婚に文句があるのわかってんだったら、お母さんが「はい、待ってましたあ!」って飛びつくような話をわざわざするか?まあ、そんな事考えずにお母さんについ話したのかもしれないんだけど、だったら尚更だよ。またこういうめに遭う可能性があるわけじゃん。これ以上いやあああな思いをするのはごめんこうむるよ。
それから二度とパトリック家に行くこともなかった。あれから10年。あの時生まれた子供ももう10歳だよ。別に何の感慨もないけどな。
今日の1曲 Tom Waits 「Innocent When You Dream」
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